「くしゃみのたびにヒヤッとする」「湯船から上がるとお湯が漏れてしまう」
――これらは骨盤支持組織(筋肉・筋膜・靭帯)の機能低下のサインです。
膀胱・子宮・直腸をハンモック状の筋肉(骨盤底筋)や筋膜、靭帯などが支えています。
そのため、妊娠・出産、加齢などで支える組織がゆるむと、尿漏れや骨盤臓器脱のリスクが高まります。
しかし、骨盤底筋も他の筋肉と同様に適切なトレーニングで鍛えることが可能です。
まずは体の仕組みを知り、「骨盤底筋とは何か」「骨盤底筋はどこにあるのか」を正しく理解した上で、トレーニング方法を確認していきましょう。
1.腟と骨盤底筋の基礎知識
1.1 骨盤底筋は“ハンモック”のような存在
骨盤底筋は尾骨から恥骨までを覆い、子宮・膀胱・直腸を下から支えています。
複数の筋肉・筋膜・靭帯により、まるでハンモックのように骨盤底部に存在しています。
この骨盤支持組織がうまく働くことで、排尿・排便をコントロールや、内臓を支える役割を果たしています。
1.2 骨盤支持組織の機能低下で起こる体の変化
次のような変化が現れやすくなります。
- 腹圧性尿失禁:くしゃみ・ジャンプ・重い物を持つ動作で尿が漏れる
- 腟から音が鳴る(通称:腟なら):運動中や性交時に腟から空気が抜ける音が出る
- 腟にお湯が入る:入浴後に腟内に入ったお湯が後から流れ出る。
- 性交時の感度の低下:腟圧が弱まり、刺激が感じにくくなる。
- 骨盤臓器脱:子宮や膀胱が下垂し、股間に違和感を覚える。
これらは日常生活の満足度を下げ、放置すれば手術が必要になるケースもあります。
1.3 腟のゆるみは2種類(原因により対処が異なる)
腟のゆるみは大きく2種類に分けられ、対処法も異なります。
① 骨盤底筋が弱いタイプ
腟を締める筋肉(骨盤底筋)の筋力・協調性が低下しているケース
② 結合組織の損傷タイプ
靭帯や筋膜(結合組織)が伸びたり傷ついたりして支持性が落ちているケース
※ ①②が合併している人もいます。
治療の基本方針は、①には骨盤底筋トレーニング(腟トレ)等の「筋力・協調性の回復」、②には結合組織を補う・修復する「医療的介入」を検討します。
まずは自分のタイプを把握することが大切です。
2.自分でチェック!ゆるみサインとセルフ診断
「「自分は本当にゆるんでいるの?」
そう感じた瞬間こそ、体からのサインを見逃さないチャンスです。
ここでは日常生活で気づける小さなヒントと、今日からできるセルフチェック法をまとめました。
「病院に行くほどでは…」と放置せず、まずは自宅で“今の自分”を把握してみましょう。
2.1 日常動作で気づく小さなヒント
- くしゃみ・咳・笑い声でヒヤッとする
くしゃみをした瞬間、下着が少し湿る
――これは腹圧が一気に高まり、尿道の閉鎖が追いつかなかったサインです。 - ジャンプや階段でジワッと漏れる
トランポリンや縄跳び、子どもを抱いて駆け上がる階段で漏れるなら、骨盤底筋の“瞬発力”が不足気味かもしれません。 - 浴槽のお湯や空気が腟に入る
お風呂あがりやヨガの開脚ポーズで“ブッ”と音が出る「腟なら」は、腟壁と骨盤底筋がゆるんで隙間ができた証拠。 - タンポンが落ちてくる/フィットしづらい
奥に入れたはずのタンポンが歩行中に下がる、経血が横漏れする、これも支える力の低下のサインです。 - 下腹部の重だるさや股間の違和感
夕方になると「何か挟まっている」ように感じるのは、臓器がわずかに下垂し始めている可能性があります。
どれか一つでも思い当たれば、骨盤支持組織に“ゆるみ傾向”が出ているサイン。
2.2 手軽にできるセルフチェック法
- (1)咳テスト
トイレを済ませた直後、立ったまま軽くひざを曲げて咳をひとつ。
ショーツに水滴がつけば要注意。
量が多いほど筋力低下が進んでいると考えられます。 - (2)指テスト
仰向けで寝て、両膝を立てます。
中指を第二関節まで腟に入れ、ゆっくり締めてみましょう。指を「ぎゅっ」と包み込む感覚があれば合格。
指に圧力を感じない場合は鍛える余地大です。
また、指が押し出される感覚がある場合は、力の入れ方が間違っている可能性が高いです。 - (3)ストップ・スタート尿流テスト(週1回まで)
排尿の途中で一度ピタッと止め、再び出す動きを数秒で切り替えます。
スムーズにコントロールできれば筋力はまずまず。
止まらない、止めても漏れ続けるなら改善が必要です。
※頻繁に行うと膀胱炎リスクが上がるため週1回で十分。 - (4)セルフ鏡チェック
下半身裸で手鏡を床に置き、真上から腟口を観察。
骨盤底筋に力を入れたときに腟口がしぼむ/持ち上がるならOK。動きが乏しい、会陰周辺がふくらむように見える場合は、筋力が低下しているか動かし方が間違えているサイン。 - (5)“10秒ホールド”体感テスト
イスに浅く腰掛け、背筋を伸ばして肛門・腟・尿道を同時に締めます。
そのまま10秒キープし、10秒リラックス。
これを10回繰り返して「強い疲労感」「数回目で力が抜ける」と感じれば持久力が不足しています。
日常動作・セルフ診断でゆるみを自覚しても落ち込む必要はありません。
骨盤底筋は他の筋肉と同じく、正しく使えば応えてくれます。
【自己判断の限界と受診のすすめ】
上記の指テストなどで大まかな傾向は分かりますが、①筋力低下と②結合組織損傷の判別は専門医の受診が最も確実です。
産婦人科(骨盤底機能の診療経験がある医療機関)で評価を受け、適切な治療方針を相談しましょう。
3.腟・骨盤底筋を動かすイメージを身につける
骨盤底筋トレーニング(腟トレ)は「骨盤底筋を自分の意思で収縮させるだけ」と聞くと簡単に思えますが、実際はターゲットの筋肉を正確に“感じ取る”ことが最大のハードルです。
まずは脳と筋肉をつなぐイメージづくりから始めましょう。
■イメージトレーニング
- 仰向けになり深呼吸
いちばん力を抜きやすい姿勢で、鼻から吸って口からゆっくり吐きます。 - 肛門・腟・尿道を「ストローで吸い上げる」
下からエレベーターを1階ずつ引き上げるイメージで、体内にそっと引き込む。 - お腹やお尻が硬くならないかを手で触って確認
お腹が堅くなっている場合 、それはいきんでいて逆効果です。
腹部は動かないのが理想です。
うまく動いているか確かめたいときは、手鏡で会陰部が内側へ引き込まれる様子を見る、あるいは清潔な指を腟に入れて“ぎゅっ”と包み込む圧を感じると確実です。
感覚がつかめない人は、腟マッサージで筋肉をほぐしてから再チャレンジすると動きやすくなります。
3.1 腟・骨盤底筋の基本的なトレーニング方法
1. 2〜3秒間しっかり収縮 → 4〜6秒リラックス
「引き上げたまま数を3つ数え、力を抜いて6つ数える」くらいが目安。
2.10回で1セット、まずは3セットから
慣れてきたら5セット→最大10セットへ。
3.呼吸は止めず、自然に続ける
息を吐くときに締め、吸うときに緩めると横隔膜との連動がスムーズです。
4.姿勢バリエーションを変える
仰向け:内臓の重量がかからないので初心者におすすめ。起床後やリラックス中の実施にも最適
座位:デスクワーク中や休憩中に実践
立位:信号待ちなどでもこまめに実施
※トレーニングは無理のない範囲から取り組むようにしてください。また、痛みや違和感が続く場合は医師に相談してください。
3.2 腟・骨盤底筋トレーニングのタイミングや頻度は?
■頻度
なるべく毎日が基本。
3カ月ほどで症状の改善も期待できます。
■おすすめタイミング
| シーン | 例 | コツ |
| 朝 | 目覚めて伸びをするとき | 布団の中で1セット |
| 日中 | 通勤電車・エレベーター待ち | 立位でクイック収縮 |
| 仕事 | 休憩のストレッチ後 | 椅子に浅く座り背筋を伸ばす |
| 家事 | 皿洗い・掃除機がけ | 腰を反らさずお腹も凹ませる |
| 夜 | 入浴中・就寝前 | リラックスした深呼吸とセット |
■続けるコツは成長の可視化とご褒美設定
- スマホの習慣化アプリで「骨盤底筋トレーニング(腟トレ)」リマインダーを設定。
- カレンダーに○×を付けて達成感を可視化。
- 3週間続いたら好きなスイーツや入浴剤をご褒美に。
■徐々にステップアップしてみよう
収縮時間を最大10秒、セットを増やすなど負荷を徐々に上げると、筋繊維がさらに強化され「くしゃみでヒヤッとしない」「タンポンが落ちにくい」などの変化が実感しやすくなります。
反対に、力みすぎて腹圧をかけると逆効果なので、正しい動きを守ることがポイントです。
3.3タイプ別の代表的な治療選択肢
① 筋力低下タイプ
・骨盤底筋トレーニング(腟トレ)
・磁気刺激(磁気治療器による骨盤底筋収縮サポート)
目的:筋力・協調性の回復、尿漏れ予防・改善
② 結合組織損傷タイプ
・腟レーザー(腟粘膜のコラーゲン再構築を促す)
・腟ヒアルロン酸(ボリューム補填・支持性の補強)
・腟縮小術(外科的に支持組織を縫縮・補強)
目的:支持性の補修・修復、腟のタイトニング
※治療の適応や効果は個人差があります。専門医の診察で適切な選択を行いましょう。
4. 骨盤底筋トレーニング(腟トレ)グッズの上手な選び方
骨盤底筋トレーニング(腟トレ)は道具がなくても始められますが、「続かない」「成果が見えない」という壁にぶつかる人が少なくありません。
そこで味方になってくれるのが骨盤底筋トレーニング(腟トレ)グッズです。
正しく選べば “測る・感じる・楽しむ” の3ステップでモチベーションの維持に役立ちます。
■なぜグッズが必要なのか
- 動いている実感が得にくい
骨盤底筋は目に見えないうえ、表層の筋肉と違って動きを鏡で確認できません。 - 筋力の”今”がわからない
体重計なしでダイエットするのと同じで、数値がなければ成長を感じづらく、挫折しがちです。
こうしたお悩みを補助するアイテムとして、irohaヘルスケアの「ケーゲルチェッカー」(腟圧測定器)があります。
腟内の収縮値を計測できるため、現在の筋力レベルを数値で確認でき、トレーニングの進み具合を把握しやすくなります。
このようなアイテムを活用しながら、骨盤底筋のケアに取り組んでみましょう。
5.まとめ
くしゃみやジャンプでヒヤッとしたり、湯船から上がるとお湯が漏れてしまう、そんな小さな違和感は、子宮や膀胱をハンモック状に支える骨盤底筋・筋膜・靭帯の機能低下が原因です。
尿漏れや腟なら、性交時の性感受性の低下、骨盤臓器脱などが起こります。
まずは咳テストや指テスト、鏡チェックで“今”の状態を把握しましょう。
仰向けで深呼吸し、肛門・腟・尿道をストローで吸い上げるように2〜3秒締め、4〜6秒ゆるめる基本トレーニングを10回1セット、1日3セットから始めれば、3カ月ほどで「無意識でも締まる」感覚が芽生え、症状も改善する可能性が有ります。
通勤電車や家事の合間など、姿勢を変えながら行うとより効果的です。
また、収縮値で示してくれるグッズを使うことで、動いている手応えと成長が実感でき、モチベーションが一気にアップします。
骨盤底筋とはなにか、どこにあるのかを正しく理解することが改善の第一歩です。
そして、大切なのは正しい動きを守りつつ、少しずつ負荷を高めること。
骨盤底筋トレーニング(腟トレ)を毎日の習慣にすることで「くしゃみでヒヤッとしない」軽やかな毎日を取り戻しましょう。
※本記事はセルフケアの一例であり、症状の強い方は医師にご相談ください

